それまで、騒いでいたのがまるで嘘のように、みんなして、雪乃を見とれていた。勿論、大樹も・・・有紀に手を抓られたのは言うまでもない。涼でさえ、見とれて声が出なかったほどだった。
部長の轟が、おいおい、新郎しっかりしてくれよ!という声で、我に返った。そして、みんなが笑った。
異例の結婚式と言うことで、司会も会社の上司である本社の生産部の副部長である山倉がやっていた。山倉だけが、涼と雪乃の最初の頃から事情を知っていた人物だからだ。
「えーと、まず最初に、新郎、春名涼さんと 新婦、中井雪乃さんの結婚式を開催します!」まるで野球の開催式みたいだと思った。
「仲人は、開発事業部の部長の轟夫妻です、そして、司会は私、山倉がさせていただきます!」と挨拶があった。
「ご存知の方もいるとは思いますが、ほとんどの方が知らないとおもうので、ここで二人のなり染めというか出会いを話させていただきます!」
「出会いは雪乃さんが17歳の現役高校生、涼君が27歳の秋だったと思います。出会いの3日前に、雪乃さんのご両親が事故で、尊い命を奪われ、お葬式の済んだ昼下がりに、土砂降りの中、泣きながら道を歩いていました。そこへ、用事があって半休で休んでいた、涼君が午後からの用事を済ませて、家に帰る途中に、いつもと違う道を選んで通ったのがきっかけでした。雪乃さんに傘とタオルを渡して、風邪をひいちゃうよと声をかけたのが二人の出会いです。
そして、雪乃さんをマンションまで連れて帰り、お風呂にいれてから
雪乃さんはなぜか涼君に全てをうちあけて途方にくれてることを伝えました。涼君もその言葉に感銘をうけて、二人はある約束を交わして
暮らし始めました。その約束とは、
約束期間は4年半、一緒にいる間に、雪乃さんに女性として見させるな!また涼君も男としてみさせないという条件の元、二人は一緒に暮らし始めます。ご存知の方もいるとは思いますが、雪乃さんは神戸大学を出ています。その学生時代の学費から生活費すべてをこの涼君が負担しています。一緒に住むようになって最初に異性を感じたのは、
涼君ではなく、雪乃さんでした。でも、涼君はひたすら約束をまもっていたそうです。雪乃さんの誘惑にも負けず、一生懸命に。そしてみんな知ってるように28歳の若さで主任になり、更に仕事に燃えました。それは、大学の資金を稼ぐという目的の中、雪乃さんが他の人と遜色がない生活ができるようにという目的が最優先で仕事に打ち込みました。大学にはいってからも、色んなことがふたりにはあったと思います。そして、二人は一度、約束の4年半を境に、離れています。
でも、今回最高の結果として二人は再び結ばれたのです!」
みんな、その話をきいて言葉を失った。勿論知ってる人も何人かはいたけど、まさか!その若さで、雪乃の生活費から学費まですべて負担していたとは・・・驚きで暫く誰も声を発しなかった。
最初に声をだしたのは、有紀だった。
「雪乃!おめでとう!!」そう叫ぶと、みんな拍手喝采の中、
「おめでとう!」コールが始まった。
そして、轟部長がマイクを持って、「もうこうなったら、二人を肴にして宴会だな!」と笑いながら言った。
各テーブルにマイクが1本づつ渡されて、聞きたいことがあったら1つのテーブルに1つの質問くらいでなんでもきいてやってくれ!と轟部長が言った。
最初に綾香がマイクをもって話をした。
「みなさん、初めまして。私、H高校の教師をしている、白位綾香といいます。雪乃さんの担任で、涼の高校時代の彼女です!」
まじか!!そんなことまで言って良いのか!と言う声まで飛び交った。「お二人に質問です。喧嘩したときどっちが強くてどっちが謝りますか?」
雪乃はマイクをもって、「喧嘩したときはほとんどあたしが勝っています。いつも、涼が謝るかな?」と笑いながら雪乃は答えた。
横で涼も苦笑いをしていた。
「新郎はそのことについて何か意見ありますか?」と綾香は続けて
聞いた。涼もマイクを握って「まあ、さっきの意見でほぼ同意ですね!」と笑った。綾香は「優しすぎるのも、問題よ!」と言った。
次に、製造課のテーブルで、課長の八木が質問した。
「月並みですが、初めてのファーストキスはいつで、どこでしましたか?」涼、答えてよ!といわんばかりに雪乃はこっちを見た。
マイクを握って涼は答えた「いつくらいだと思いますか?」と。
「おお!問題ですな!」各テーブルで意見をまとめた。
親族、友人のテーブルでは、雪乃が社会人になってから直ぐに!
開発グループでは、そんなに遅くないだろうと付け加えて、一緒に暮らしてすぐだ!と。製造グループは、最初に出会った時に!
生産課はある程度事情を知ってるからといって、まあある意味最近じゃないか?と笑っていった。
品質グループは、今日!ここでするのが最初だったり!と笑いながらこれまた答えた!最後に事務所グループは知り合ってすぐくらいだと思いますね。でないと、そんなに二人がしっくり行くわけないですからね!と付け加えていった。
製造課長がマイクを持ち直して!「さて、正解はこの中にあるんでしょうか!お答えをどうぞ!」と言った。
「雪乃が大学4年生、卒業まで後半年くらいですかね」と涼は答えた。
有紀はそれがいつなのかすぐにわかった。
「じゃー場所は?」とすかさず、聞いた。
「場所はマンションの部屋の中です」
にやりとして、課長は続けた。「それで、その後は?」と・・・
そんなの聞いていいのか!という、野次みたいな声が飛んできたが
聞いてみたい!という声もあった。
再び、マイクをもって涼は「内緒!」と笑った。
ええ!!答えてよーと言う声が飛んだ。
次に、生産課がにやりとわらって「では、今度はうちからの質問です!」といって涼の方にむかって「では最初に二人が結ばれたのはいつですか?」と・・・きたか!と涼は思った。最初に笑いがきになっていたので来るのではないかと思っていた。
涼がマイクを持とうとした時に、先に雪乃がマイクを持った。
みんな一斉に「おお!マジか!」といった。
雪乃は立ち上がって「まだ、してません!」と言った。
その言葉に会場のほぼ全員が、えええーーー!!うそっ!!と言ったのはいうまでもない。
マイクを取り直して、涼も「ホント!」と苦笑いして答えた。
では次はうちから質問しますねと事務所からの質問だった。
「プロポーズの言葉は?月並みですが、教えていただけませんか?」と質問された。
雪乃がマイクをもって立ち上がった。
「プロポーズはあたしがしました!」
その言葉に、おい涼、おまえそれはダメだろうが!今ここで言い直せ!と轟部長が言った。プロポーズは男が言うもんだろう!と
それを遮って雪乃は言った「すこしだけ先にお話させてもってもいいですか?」と。お、すまん、先にいってくれと轟部長は詫びた。
「涼は、絶対に先にプロポーズすることはないと思っていました」
なぜ?みんなそれは気になった。
「だって、涼はあたしの保護者ですから!保護者が普通そんなこといわないでしょ!」と・・・確かにとみんな納得した。
「みなさんのおかげで、あたしは今年の初めに開発事業課に転籍できました。自分の夢だったスタートラインに立つことが出来たことは、ここにおられるみなさんのおかげだと思っています。あたしが一番輝いていた時だったんです!だから、もうこのときしかないと思って涼にプロポーズしました。ほっておいたら他の人に連れ去られそうだったので!あたしは、涼に”結婚して!”と言いました。涼は仕事はどうするんだ?とかおまえの夢のスタートにたったばかりでとんでもないことを言うな!とか言いました。でも、あたしはこの勝負に勝てると踏んで涼にプロポーズしに行きました!」
「それはなぜですか?」事務所グループから質問が飛んだ。
「涼の理想ってどんな人かしってますか?」
「いえ、しりません」事務所グループの代表が答えた。
「涼はしっかり前を向いて生きている人がすきなんです。そしてそこに目の輝きがあればもう最高!っていう理想があるんです!」
ほうーそうなのか?と山倉副部長は聞いた。
「はい!」と短く涼は返事をした。
「涼の理想は、その目の輝きをもってる人で常に自分に目標をもって前を向いてる人と付き合いたい、結婚したいと考えています。そして、結婚してもその人のサポートをすることで、どっちかが尽くす関係でなくて、お互いがお互いをサポートするというのが理想の結婚相手だと言っています」
すごい理想!という声が聞こえた。
「だから、あたしがプロポーズした時は開発事業課に配属されてこれからの事を前向きに考えて、目標にむかっている目の輝きを自分でもっていると自信がありました。だから、涼があれこれと質問して返事を渋っている涼に言いました!あたしの目を見て!と!!その後、諦らめたように、俺達結婚しようと言ってくれました」
諦めたのか!?という笑いが起こった。
最後に開発からと轟部長自身が質問した。
「子供はどうするんだ?」と。
マイクを持たずに涼は立ち上がり、「雪乃の夢がかなってから次の目標を立てたいと考えています!なので、早くても5年後ですかね?」ときっぱりと言った!
「わかった!出来るだけ早く子供ができるようにこっちも努力させていただくよ!」笑いながら轟は答えた。そして会場全体が笑いの渦になっていったときに、入り口から突然に人が入ってきた。
「社長!!」全員起立した。
「まあまあ、めでたい席だからみんな座ってくれ!」と社長は言った。「春名君、中井君、おめでとう!心からお祝いを言わせていただくよ!」と社長は祝辞を述べた。
「妹さんも色々苦労はあったと思うけど、本当におめでとうございます」妹のゆかりは一礼して「ありがとうございます。これで死んだ両親にも報告できます」と答えた。
「さて、私がここに来た理由はだ!明日の辞令についてなんだが、
本人達も明日から新婚旅行だろうし、先に言わせていただこうとおもってな!本当はこんなめでたい席でいうことではないことは承知しているが、どうも、轟君の話で結婚式というよりは会社の宴会のようだときいておってな」急に真面目な顔をして1つ咳払いをして社長は言った。
「辞令」
「本社、生産本部副部長 山倉健 4月1日付けをもって、生産部部長を命ずる
k工場生産課課長 佐伯雄一 4月1日付けをもって本社生産本部副部長を命ずる
K工場生産課係長 春名涼 4月1日付けをもってk工場生産課課長を命ずる」と発表した。
やったーおめでたい席で更におめでたいことが続いた!!
もう会場は大騒ぎだった。
「静かに!」マイクで山倉は声を発した。
「えー最後に残りの人は、明日の人事発表をみてくれ!」
「今日は春名の辞令に関することだったから特別にここで言わせて貰った。」と。
「では私はこれで失礼します。後はあまり二人が疲れない程度に!」と念を押して社長は会場を後にした。
社長が会場をでたのを確認すると、会場はもうパニックに近いほどの大騒ぎとなった。
マイクを持った涼が言った「あの・・・俺まだ課長試験さえうけてないんですが・・・」と。一瞬会場は大騒ぎをピタッとやめた。
山倉が、「辞令が優先にきまってるだろう!おまえは試験なしで課長になった初めての課長だよ!それに35なんて今までにそんな若さで課長になったやつなどいないしな!」
新しい部長と新しい副部長と新しい課長に乾杯!!
だれとなしにそう叫んだ!一斉に乾杯!となった。
会場は約束の2時間なんてとうの昔に過ぎていた。でもだれとして席をたつものは、いなかった。
司会の山倉は会場先に1時間延長を申し込んでいてくれた。
その3時間も来そうな勢いで、宴会ムードは収まらなかった。
その中で妹のゆかりは、雪乃の席にきて、「兄貴をよろしくおねがいします」と雪乃に話しかけた。
「こちらこそ、まだまだ未熟者ですがよろしくお願いしますね、お姉さん!」と嬉しそうに答えた。孤独で身寄りがいない、雪乃は涼と結婚して、ゆかりというお姉さんも出来た。
あの雨の中で、運命の人に出会えた。
雨の中、約束の日がきて二人は別れた。
でも、また雨の日に、二人は将来を誓い合った。
私たちはこの雨の日達に、いつも運命を託していたのかもしれない。
この雨は涼とあたしの両親の声だったような気がする。
いつも、雨という雫で私たちにメッセージをだしているんじゃないかと・・・
雨の日「Rain Days」に・・・
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